HOME > iPS細胞技術の普及・実用化を拓くキー技術

iPS細胞技術の普及・実用化を拓くキー技術

iMatrix-511

iPS細胞培養の
スタンダード細胞外基質:iMatrix-511
シングルセル継代可能
あっという間にラクラク増殖

iMatrix-511

iPS細胞の医療応用においては、iPS細胞をまず未分化状態で大量に速やかに増殖させる必要がある。
ヒトラミニン-511由来のiMatrix-511を用いれば、iPS細胞でも普通の細胞のようにシングルセルでの継代培養が可能である。
iMatrix-511を製造する原料は、バイオ医薬品の製造で用いられるCHO細胞を無血清培地を用いて製造しており、医療に応用する基質としても有用性が高い。

開発経緯

iPS細胞の臨床応用には、細胞を短期間に大量に簡単に増殖させる技術が必要である。
初期のiPS細胞培養方法は、マウス由来のフィーダー細胞を用いる培養方法であった。
また、フィーダー細胞以外のiPS細胞の培養基質としては、マウスのEHS腫瘍由来のMatrigelや、ヴィトロネクチンなど性能や由来としては不十分なものであった。
大阪大学のマトリクソーム科学(ニッピ)寄附研究部門の関口清俊先生は、京都大学再生医科学研究所の中辻憲夫先生、川瀬栄八郎先生、宮崎隆道先生らとともに、ラミニン-511のE8断片と呼ばれるC末端側の約1/5のインテグリン結合部位を有する断片に、ES/iPS細胞をシングルセルでも未分化状態を保ちながら大量に増殖させることができる能力を見出し、論文発表するとともに(Miyazaki et al., Nature Com., 2014)特許を出願した。
(株)ニッピは、この特許技術に関する実施許諾を受けており、製造を行っている。

技術内容

ヒトラミニン-511アイソフォームは、α5鎖,β1鎖,γ1鎖の3本のポリペプチド鎖からなる約800 kDaの巨大な分子である。
3種類のポリペプチド鎖はコイルドコイル領域で主にαヘリックス構造をとって安定な3量体を形成する。
ラミニンが、iPS細胞表面のレセプタータンパク質であるインテグリンと結合するには、複数のポリペプチド鎖からなる立体的構造が必須である。
このラミニン-511のE8断片領域を、抗体医薬品製造用原料として実績が多く、無血清培地による浮遊培養が可能なCHO細胞に発現させて生物由来原料基準のタンパク質を大量に合成することが可能になった。

普及・実用化に果たす役割

従来のフィーダー細胞を用いたiPS細胞の培養は、コロニーの観察、継代作業および培地交換などに経験と時間を要し、技術者の負担も大きい。
しかし、iMatrix-511を用いることにより、フィーダーフリー化されたiPS細胞は、培地交換も2日おきとすることができ、取扱いが非常に簡便となった。
人件費や作業時間までを考慮した場合には、トータルコストの削減への貢献は大きい。

未来に向けて

ラミニンは、生理的にも上皮細胞や内皮細胞、筋細胞と接している細胞外マトリクス基底膜の主成分である。
iPS細胞の未分化状態での増殖だけでなく、多くの細胞の分化誘導や分化形質維持に有用なタンパク質である可能性がある。
このラミニンタンパク質の可能性を、多くの研究者に試していただきたい。

未来に向けて


「StemFit®」
AK02N・AK03N

世界最高クラスの性能とコストパフォーマンスを備えた
再生医療における標準培地

iPS細胞にはこれまで、動物由来の原料を含む培地を用い、フィーダー細胞と一緒に培養する方法が用いられていた。
しかしながら再生医療の臨床研究実現のためには、より安全な成分で構成され、より簡便な培養ができる培地が必要であった。
「StemFit®」培地は、味の素株式会社の分析・配合技術と日本の最先端アカデミアのiPS細胞に関する知見・研究成果を組み合わせ、培養に必須の成分を最適な比率で配合することにより、iPS細胞およびES細胞を、フィーダー細胞を使用しない簡便な方法で、長期にわたり安定的に増殖することを可能にした培地である。
基礎研究での使用を想定した「StemFit®」AK02Nと、臨床研究での使用を想定した「StemFit®」AK03Nの2種類のラインナップがある

「StemFit®」AK02N

「StemFit®」AK03N

開発経緯

再生医療の早期実現のためには、更なる技術革新に加え、そのプロセスにおいて、産業として耐え得るだけのコスト構造を実現させなければならない。そのコスト構造の大きな部分を占めるのが、細胞の増殖のために使用される培地である。これまで再生医療用の培地は、海外製のものが主流であったが、その安全性、品質は日本の再生医療の臨床研究実現に耐え得るものではなかった。味の素株式会社は、動物細胞用/医薬品製造用無血清培地ASF培地や臨床栄養剤を開発してきた経験から、非常に短期間で「StemFit®」培地を生み出すことに成功した。

データ

1. 細胞増殖曲線

StemFit®AK03Nで培養したヒトiPS細胞(201B7株)は、長期間安定的に高い増殖率を示した。

細胞増殖曲線

2. 多様な足場材での培養評価

iMatrix-511, Vitronectin-N, Matrigel®をコーティングした6 well plate上で、ヒトiPS細胞(201B7株)をStemFit®AK03Nを用いて培養可能であることが確認された。また、各足場材において、未分化マーカーOCT3/4(赤)ならびにTRA-1-60(緑)が陽性であることが確認された。

多様な足場材での培養評価
多様な足場材での培養評価

技術内容

技術内容

「StemFit®」培地の原型は、味の素株式会社の臨床栄養剤やASF培地の開発で培われた、①アミノ酸代謝研究、②バイオ素材の生産技術、③高品質な素材の利用と組み合わせによる配合剤設計技術、④分析技術、⑤品質管理技術を駆使して進められた。臨床研究での使用を想定した「StemFit®」AK03Nは、バイオ技術で作成したリコンビナントタンパク質を利用することにより、動物やヒトに由来する成分を全く含まず、精製された成分のみで構成されている。

普及・実用化に果たす役割

臨床研究での使用を想定した「StemFit®」AK03Nは、​高い増殖率と優れたコストパフォーマンスを実現しながら、長期に安定して継代培養できる培地として、厚生労働省の薬事審査機関である独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の対面助言を受け、「生物由来原料基準」を適用する原料は含んでいないことが確認されている。​ 味の素株式会社は、iPS細胞やES細胞の培養に用いる「StemFit®」培地の販売を通じて、再生医療の実現や新しい医薬品の開発に寄与することにより、人類の健康な生活の実現に貢献する

未来に向けて

「StemFit®」培地は、あくまでも再生医療を実現するための重要な要素の内の一つに過ぎない。
再生医療の早期実現のためには、たんぱく質や合成素材、培養器・機器、培養家、容器、検査機、検査企業、輸送業者など、様々な技術・企業が連携しながら再生医療を推進していくことが重要である。
味の素株式会社は「StemFit®」培地の開発をさらに進め、さらにバイオ生産技術を生かした再生医療の素材創出にも貢献する。​


CytoTune®-iPS 2.0, 2.0L

染色体が無傷で外来遺伝子フリーの​
iPS細胞作製が可能なセンダイウイルスベクターキット

CytoTune®-iPS

CytoTune®-iPSは、効率的な核初期化に必要な、いわゆる山中4遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF4、c-MYC (L-MYC))をセンダイウイルスベクター(SeVベクター)に搭載した製品である。これらを適切に使用することにより、ヒトなどの体細胞から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を誘導する事ができる。CytoTune®-iPS 2.0がc-MYCを搭載しているのに比べ、2.0Lは、より安全性の高いといわれるL-MYCを搭載しており、臨床用CytoTune®-iPSと同じ構成のキットとなっている。

開発経緯

染色体に傷を付けないCytoTune®-iPSのiPS細胞誘導効率等の性能のアップとベクターを消去し易くするためにCytoTune®-iPS 2.0を開発した。さらに国内外から年々増加する「臨床に使用可能なiPS細胞の作製用ベクターが欲しい」との声に応えて、IDファーマは、臨床用CytoTune®-iPSの開発を開始した。開発では、専門家らの意見により臨床上のリスクを下げるため、これまでのCytoTune®-iPS に用いられているc-Mycに代えてL−Mycを採用し、安全性を高めることとした。本製品は臨床用ベクターと同じ製品構成を用いた研究用のCytoTune®-iPSである。

技術内容

CytoTune®-iPS

【染色体を傷つけない】
センダイウイルスの最大の特長は、RNAをゲノムとするが、レトロウイルスと異なりRNAのまま細胞質に留まり、そこで複製・転写・翻訳が行われる。細胞核内に遺伝情報が入り宿主のDNA配列の中に組み込まれる事はないため、染色体に傷を付けることが原理上ない。

【高い感染性】
センダイウイルスベクターのもう一つの特徴は、その感染性の高さである。センダイウイルスはウイルス表面上のHNタンパク質が細胞膜上のシアル酸に結合し感染する。このシアル酸はほとんどの細胞種で発現しているため、広範囲の細胞種に感染する事ができる。

【誘導因子の消去】
センダイウイルスベクターは、細胞質内で複製を続けるため、誘導遺伝子が持続的に存在していたが、IDファーマ社開発の新技術により細胞内から消去することが可能になった。CytoTune®-iPSを用いて誘導したiPS細胞は継代に伴い、徐々にCytoTune®-iPSが消えていきCytoTune®-iPSが残存しないiPS細胞を作製する事ができる。

普及・実用化に果たす役割

センダイウイルスベクターは、その原理・生活環からレトロウイルスベクターを用いた場合のような発がんの好ましくない形質転換を考慮する必要がないため、より高い安全性が求められる臨床応用に最適である。 また、感染効率が高く、動物種も選ばないため哺乳動物や鳥類まで幅広い動物をターゲットにする事ができる。CytoTune®-iPS 2.0では、さらに誘導効率が向上しておりこれまで誘導しにくかった細胞からもiPS細胞を誘導する事に成功している。

CytoTune®-iPS

CytoTune®-iPS

CytoTune®-iPS 2.0LはiPS細胞の誘導効率はそのままに、より臨床に近いステージで研究を行おうと考えている研究者に向けたキットである。
誘導因子の消去においても、CytoTune®-iPS 2.0と同様にわずか2継代で80%以上のコロニーがベクターを消失する。

未来に向けて

iPS細胞研究は、研究レベルから臨床へと移行するステージに来ている。疾患をターゲットにした分化方法の確立へと、より実用化が進んでいる。本ベクターは、臨床用iPS細胞を作製するGMP製造される(CytoTune®-iPS 2.0LG)と製品構成が同じnon-GMP製造品CytoTune®-iPS 2.0Lになっており、今後臨床で使用されるiPS細胞と同等のiPS細胞を自分で作製し、分化研究を進める際に役立つとおもわれる。センダイウイルスベクターを使用した技術はこれまでiPS細胞の誘導に主眼を置いていたが、発現のON/OFF制御がある程度できるようになったため、iPS細胞からの様々な細胞・組織への分化誘導にも活用できると考えている。
こういった分野でも、【染色体を傷付けない】【高い感染性】などの特質は大きな役割を担えるのではないかと現在研究開発を進めている。